昭和30年代、実家の隣が「アイスキャンデー屋」さんで、近くの映画館にアイスを卸していた。で、そのおっちゃんに付いていき、映画をタダで見せて貰うことが出来た。そう何時もゞもタダ、という訳にはいかないがタイミングが合えば潜り込めたのだ。
その頃の映画館は、週替わりの3本立て興行で、小さな町でも映画館は2~3館はあった。当然、封切館ではなく、同じフイルムをその2~3館で使い回しするのだ。上映が終わったフイルムを次の映画館に運ぶお兄ちゃんがおり、丸いブリキ缶に収めたフイルムを自転車の荷台にくくり付け、急いで運ぶ姿を見かけたものだ。たまに、前の映画館でトラブルがあると次の映画館ではフイルムの到着が遅れ観客の文句が出ることになる。
また、映写機の調子が悪いとスクリーンに「コマ」がダブって映り、これもまた観客から「二階建てになってるで~」と映写室に文句が飛ぶ。
そんな子供たちの楽しみだった時代劇のチャンバラ映画も家にテレビが買えるようになると映画館に通う回数も減り、子供たちの憧れの的は、「アラカン」からテレビの「ララミー牧場」や「ローハイド」の西部劇のカウボーイに移っていった。そんな子供たち、つまり私が大人になり、西部劇に飽きだした頃、映画やテレビに面白い時代劇が復活しだした。
「七人の侍」で名声を確立していた黒澤監督が「用心棒」「椿三十郎」で時代劇の面白さを再認識させてくれ、最近では山田洋次監督が「たそがれ清兵衛」で藤沢周平・時代小説の世界を見事に映像化してくれた。
小説の世界でも宇江佐真理、宮部みゆき、北原亜以子ら女流作家が時代小説のブームを興した。その北原亜以子の「深川澪通り」シリーズが、NHK木曜時代劇「とおりゃんせ」としてドラマ化され江戸庶民の暮らしと小さな事件を丁寧に描いた。そんな時代小説のブーム、かっての吉川英治や五味康祐以来の火付け役となったのが池波正太郎の「鬼平犯科帳」シリーズだろう。
「人間というやつ、遊びながらはたらく生きものさ。善事をおこないつつ、知らないうちに悪事をやってのける。悪事をはたらきつつ、知らず識(し)らずに善事をたのしむ。」と平蔵が洩らす言葉に昔の勧善懲悪のチャンバラには無い池波ワールドにはまった。 そして「鬼平」をテレビドラマ化したシリーズが始まり、これも欠かさず見ることになった。画面の中で平蔵や密偵たちが生き生きと活躍する姿もさることながら、一話の中に必ず出てくる「食べ物の場面」も楽しみのひとつだった。で、この写真の徳利である。

それがどうして我が家の食卓にあるか?。快く譲ってくださった方に迷惑がかかるといけないので入手経路は明かされないが正真正銘「五鐵」で平蔵や密偵のおまさが手にしていた徳利である。(と私は確信している)最近はこの徳利を肴にして「鬼平」になったつもりで晩酌を楽しんでいる。
有難すぎて使えない、、、眺めるだけである。