5月28日付け「毎日」の特集ワイドで「この国はどこへ行こうとしているのか―憲法よ」という新シリーズが始まった。参院選で自民党が憲法改正を争点にする姿勢を見せているが、国民はその必要性を感じているのだろうか?という観点で識者に憲法への思いを聞く、というシリーズ。
第1回目は永六輔さん。50年近く前にラジオの深夜放送で憲法全文を朗読したことがあり、リスナーから「憲法の条文の意味は」とか「どんな字なのか」など多くの反響があり、私(永さん)が感じた事は、「言葉が難しい、ですから中学生が読んで理解できる文章に、耳で聞いてわかる憲法に改正すべきです。その立場で言えば私は改正反対ではありません」と。60年以上ラジオとともに歩いてきた永さんは、耳から入って理解することの大切さをまず説いた上で「官僚が書いたメモを基に答弁するような政治家が憲法改正の必要性を述べても何も伝わらない」と言う。
この後、憲法99条について「(これは)憲法を変えてはいけないという条文です。天皇陛下といえども変えられない。それなのに国会議員が変えると言い出すのはおかしい。聖徳太子の『十七条憲法』はそもそも役人に守らせる規則でした。その精神が今の99条に残っている」と熱を帯びた口調で語る。
自民党の改正案では憲法尊重擁護義務の対象を全国民に広げようとしている。「国民に義務を課すなんてちゃんちゃらおかしいですよ。憲法は国民を守るためのルール。それなのに99条を変えると言い出すなんて、政治家が憲法を勉強してこなかった証です」と言い切る。そして、ここからが今回、私が伝えたいことの一番重要な点である。永さん曰く「憲法は『この国をこうしたい』ということが書いてあります。政治や外交と違い、憲法は夢でいいんです」記者が「夢なんですか?」と驚くと「憲法はね、こうありたいという夢なんですよ。簡単に書き直したり、補足するものじゃない。だって夢は改正したりするものじゃないでしょう。」
何とわかりやすく、そして、日本国憲法の精神をズバリ、言い当てているように思う。永さんの「憲法-夢論」は、戦中、戦後の混乱の中を生き、「新しい憲法はキラキラと輝いていた」と、同じく戦争を知る作家の井上ひさし、野坂昭如、俳優の小沢昭一さんらと共に平和の大切さを訴えてきた。その井上さんも小沢さんも元々ラジオで活躍した世代だという。今は亡き小沢さんは「戦争を語れるのはラジオ世代」と言っていた。今、憲法の危機を実感するとともに、この事態を招いた責任は、自分たち戦争世代にあると受け止めていると言う。「戦争の恐ろしさや愚かさを伝えるため行動してきたつもりだったが、怠慢だったかも」とも語っている。そして、今のテレビ世代はどうか、「安倍首相や橋下市長ら今の政治家は冗舌な人ばかり。言葉が滑っていて責任を感じて話していない。世の中がどう受け止めているかも想像していない人ばかりだから、憲法を大切にしない」とバッサリ。最後に「憲法9条はね、理解する、しないではなくて愛すればいいんです」「憲法改正は急ぐ必要はありませんよ」と結んだ。
「毎日」では野坂昭如さんの「七転び八起き」という連載もある。今回第155回は「憲法改正-日本の何を守る」だった。永さんとは少し論点を変えた辛口の提言だった。夏の参院選に向けて日本維新の会はほぼ自滅していく事になるだろうが本陣の自民党は性急な改憲論を一時衣の下に隠しアメリカに助けてもらいながらほんの一時の景気回復の夢を餌に参院選を乗り切ろうとしているように思う。こんな一時の夢ではなく、日本国憲法を実現する、という夢を追い続けたいと思う。