念願のお菓子を食べた。京都・村上開新堂の「好事福盧」(こうじぶくろ)である。少し大きめの紀州みかんの中身をくりぬき、それを絞ってジュースにし、ゼラチンを混ぜて、くりぬいたみかんの皮に戻し固めたものである。
好事福盧の事を知ったのは池波正太郎氏の食べ物エッセイの名著「食卓の情景」を読んで、である。今から30年程前に「鬼平犯科帳」にはまり、作者の池波さんがエッセイの名手、特に食べ物に関する著書が沢山ある事を知り、片っ端から読んだ。その最初に読んだのが「食卓の情景」で、その中に「好事福盧」の事が出てくる。
新国劇の演出をしていた池波氏が京都で舞台稽古をした折、これを買ってホテルのベランダに箱ごと出しておき、稽古を済ませてホテルに帰り、暖房の効いた部屋でひんやり冷えた「好事福盧」を食べる情景が見事に描かれている。
これを読んで、長年いつかは食べたいと思いつつ、季節のもの(紀州みかんが出回る)であり、予約制だと書いてあることもあってなかなか口にすることが出来なかった。それが、昨日、京都の高麗美術館に出かけた嫁はんが「土産やで」と二つ買ってきてくれた。
昨日は昔、仕事でいろいろお世話になった方の告別式で当時の仕事仲間が四人集まった。7~8年ぶりの人もいて、「久しぶりだから」と軽く一杯のつもりが昔話に花が咲き、かなり酔って帰りの電車は駅を2回ほど乗り過ごし、9時前に帰った。という訳で、まさにドンピシャの「好事福盧」だったわけである。ミカンジュースにキュラソーを入れ、と本には書いてあったが砂糖などを入れない、誠にあっさりとした、思い描いていた味と一致したものであった。
実際に食べに行くかは別にして、このような食べ物、今でいえば「グルメ本」を読むのは楽しい。そんなグルメ本のはしり、というか元祖のような本がある。
一昨年亡くなった大阪を代表する作家・藤本義一氏が書いた「大阪たべあるき地図」である。昭和54年5月発行とあるが、私が夢中になって読み、実際に食べに出かけたりしたのは昭和60年ごろだったと思う。この本の中にも「グルメ」などという言葉は一切出てこない。出てくるのは「食い倒れの街・大阪」であり、ホルモンや、オムライスなど大阪発祥と云われる食べ物や、「淡口・濃口」醤油にまつわる話が満載である。
勿論、食べ歩きであるから、大阪キタ・ミナミを中心に504軒の名店が網羅されている。友達に連れて行ってもらった「正弁丹吾亭」や今も時々食べに行く「吉野寿司」などの名店から安く、おいしく飲める店などが満載である。しかし、大阪の街の変貌も激しく、このうち何軒が今も商売を続けているかは分からない。いつか、訪ね歩いてみたい気もする。
ひげ親父さんの正統派グルメリポート、楽しく読ませていただいております。
返信削除本文に「吉野寿司」を挙げていただいてありがとうございます。
そこで、冬といえば「蒸し寿司」です。吉野の蒸し寿司は少し値段が張りますが、本物の大阪寿司を伝えています。一度リポートをお願いします。
同じ日に、私は「鮎のうるか味噌」ですから、少し傍系のグルメを楽しみました。
食べたことはありませんが、今の季節の食べ物と言うより夏の暑い季節の食べ物と思いますが?
返信削除食べ歩きを思いたったら一度声をかけてみてみてください。
前回のチョウゲンボウはすばらしいですね、都会のマンションのベランダに度々姿を見せるのはよほど行くところに困ったか、雀を捕まえに来たかは別にして何か複雑な気がします。
この記事を読む限り、好事福蘆って非常にシンプルなお菓子ですね。材料が厳選されているのでしょう。
返信削除シンプルの中に味があるといえば、少し放置された蜜柑畑の(少しだけ先祖返りをしつつある)蜜柑は美味しいですね。酸味のない甘いだけの蜜柑より何倍もフルーティーです。そうですよね、chinunoumiさん。